是レ悪(いずく)ンゾ以テ史ヲ談ズルニ足ラン乎
『四庫全書総目提要』史部巻50、史部六・別史類・存目では、明の学者・李紀の『史略詳註補遺大成』という当時それなりに評判であったであろう史書に対して、以下のように切り捨てる。
「史略詳註補遺大成」十巻は内府(紫禁城)の藏本にして明の李紀の撰なり。紀は字、大正。金谿の人なり。
初め、元の廬陵の曾先之が《十八史略》を選び、宋に至って止めたり。
明の初め、臨川の梁孟寅益、元の事をもって,名づけて《十九史略》という。
嘉靖戊戌,紀は復た旧註の未だ備わざるをもって,増補して以て是の編を成す。
然して弇陋なること亦た甚だし。
拠って所列する引用書目は僅かに十余種,曰く、萬氏《史略筌蹄》、曰、郭氏《帝王世紀》、曰、朱子《四書》、曰、倪氏《四書輯釋》、曰、蔡氏《書傳》、曰、鄒氏《音釋》、曰、陳氏《禮記集說》、曰、朱子《詩傳》、曰、《資治通鑑》、曰、《呂氏集註》、曰、劉氏《翰墨全書》、曰、《左氏春秋傳》、曰、林朱《音訓》、曰李氏、劉氏《宋鑑》。
是レ悪(いずく)ンゾ以テ史ヲ談ズルニ足ランヤ!
これが痛快なのは当時流行していた「十八史略」の続編「史略詳註補遺大成」について、殆ど全部が朱子学者が書いた通俗書からの引用でしか無いことを暴き、長々とそれを列挙した後で、一気に「是レ悪(いずく)ンゾ以テ史ヲ談ズルニ足ランヤ!」
(お前さぁ、これで歴史を語れると思ってんのか?)と一喝して締める行文の妙にあるのである。
いまの学者先生も、しばしば、偏った学風の学者ばかりが書いた通俗書をズラズラと並べて著書を書き、大きい顔をしているヒトが多いようである。