ネットで話題の「◯◯の乱」「◯◯の変」「◯◯の役」の違いは間違い?
※本件でガジェット通信系ニュースサイト「連載JP」に記事を書きました。
内容はところどころ違います。こちらもよろしく
リツイート10,000近く!ネットで話題の「◯◯の乱」「◯◯の変」「◯◯の役」の違いに歴史学者が結論を出していた!
「トウギャッター」のみならず「ねとらぼ」でも取り上げられたので驚いているのだが、
日本史の事件の名付け方の法則が話題になっている。
「◯◯の乱」「◯◯の変」「◯◯の役」の違いに対するツッコミ
これ分かってたら勉強捗ってたなあ
「変」…成功したクーデター。成功して世の中が変わった、という勝者の視点から。
「乱」…失敗したクーデター。反乱が起きたものの鎮圧した、というこれも勝者の視点。
「役」…他国や辺境での戦争。他国からの侵略(元寇=弘安の役)でも使われる。
結構ツッコミが入っているのだが、この法則はマチガイですね。失敗した変や成功した乱が結構あるじゃん、ということです。なぜ間違ったのか?「変」と「乱」の定義付けがおかしいのです。成功・失敗は実は関係がない。
歴史学者が既に結論を出して、ネットで論文が公開されていた
実を言うとこの「◯◯の乱」「◯◯の変」「◯◯の役」の違い、既に歴史学で何度も問題になっておりまして、学習院大学長の故・安田元久先生が1983年(昭和58年)に『歴史事象の呼称について : 「承久の乱」「承久の変」を中心に』という論文を書かれています。安田先生、鎌倉時代研究の権威で、日本史の戦乱を全て書いた「戦乱の日本史」という本も書いて居られます。子供の頃、「戦乱の日本史」をよく読んでたなあ。分厚い本で、子供心にはワクワクした。
安田論文「歴史事象の呼称について」(学習院大PDFファイル)
安田先生は大前提で、「教科書では呼称の統一が意識されているが、統一をする場合の根拠は必ずしも明白ではないし、不用意にも、その学問的・思想的根拠に一貫性を欠いている面も見受けられる。」とし、割りと教科書でも命名法則はおざなりだよ、と指摘しています。
乱は「反乱」「内乱」だった!
そして安田先生は、乱と変の使い分けを以下の通り述べて居られます。
「乱とは「世の乱れ」「戦乱」「大規模な政治的抗争・内乱」などを言う。その日本史上における諸事象に対する適用例を示すと、
1)政治権力に対する武力による反抗、すなわち叛乱事件として、
藤原広嗣の乱、薬子の乱、承平天慶の乱(松平注:平将門の乱、藤原純友の乱と同じ)、平忠常の乱、保元・平治の乱、和田氏の乱、三浦氏の乱、応永の乱、上杉禅秀の乱、大塩の乱、佐賀の乱
2)政治権力の収奪による内乱状態
壬申の乱、承久の乱、元弘の乱、南北朝の(内)乱、永享の乱、応仁・文明の乱」
成功とか失敗とかは無関係に、大規模な戦乱・内乱の意味なんですね。この他に「三州錯乱」(松平元康の今川家からの独立)というのもあり、乱を起こした側が勝利して政権交代を果たしているケースが結構ある。
変は変事・異変である
「つぎに変とは「凶変」「変事」「政治変革の陰謀事件」などを意味することが多く、またときには、一つの倫理・道徳的あるいは政治的立場からの批判的判断をふまえての「不当な事件=異変」を指した。その適用例を見ると、
3)政治権力者たる天皇・皇族、あるいは将軍などが獄逆・配流などに遭い、(一つの立場から見て)不当な立場に置かれた事件
承久の変・正中の変・元弘の変・嘉吉の変
4)政治上の対立による陰謀事件
長屋王の変・応天門の変・承和の変・安和の変・鹿ヶ谷の変」
今風に言うと、「事件」に近いかな?
乱は世の中が変わった事件、変はあまり変わらなかった事件
安田先生は更に、
「2)を乱と呼称することには何らの疑問もない。それらは、まさに戦乱なのである。また1)4)は、そ
の時点での政治権力者側から見ての叛乱であり、また変事であって、歴史事実としては結局その政治権力者によっ
て鎮圧されている。そしてこの乱または変に際して、それらの事件を発起することが「乱逆」であり、発起主体は「乱逆人」「謀叛人」とされた。1)4)はこの点で共通するが、1)の乱と4)の変という呼称の差異は何か。それは一つには事件の規模の大小にもよるが、1)の場合には支配的政治体制の変革にも及びかねない叛乱事件を含むのに対し、4)は何れも政治的支配層の内部におこった権力闘争であって、たとえ事件の発起主体が勝利を得ても、支配体制や支配権力の構造の上で大変革が期待されるといった性質をもっていなかった点に注意したい。
一般的に呼称する乱と変の差は、主としてこの点にあり、変という呼称は政治的・社会的変革を意味するものではなかった。」といっています。
要するに、今風に言えば政党内部の争いが我々の生活には何らの問題がないようなもので、コップの中の争いが「変」であり、政権交代で景気が良くなったとかそういう話が「乱」なんですね。
(こうしてみるとテレビ局が国政選挙番組で乱というワードを使いたがるのはよく分かるなあ。定義として正しいんですよ)
という話でした。なんでもソースをちゃんと当たるのは大事ですね。
内容はところどころ違います。こちらもよろしく
リツイート10,000近く!ネットで話題の「◯◯の乱」「◯◯の変」「◯◯の役」の違いに歴史学者が結論を出していた!
「トウギャッター」のみならず「ねとらぼ」でも取り上げられたので驚いているのだが、
日本史の事件の名付け方の法則が話題になっている。
「◯◯の乱」「◯◯の変」「◯◯の役」の違いに対するツッコミ
これ分かってたら勉強捗ってたなあ
「変」…成功したクーデター。成功して世の中が変わった、という勝者の視点から。
「乱」…失敗したクーデター。反乱が起きたものの鎮圧した、というこれも勝者の視点。
「役」…他国や辺境での戦争。他国からの侵略(元寇=弘安の役)でも使われる。
結構ツッコミが入っているのだが、この法則はマチガイですね。失敗した変や成功した乱が結構あるじゃん、ということです。なぜ間違ったのか?「変」と「乱」の定義付けがおかしいのです。成功・失敗は実は関係がない。
歴史学者が既に結論を出して、ネットで論文が公開されていた
実を言うとこの「◯◯の乱」「◯◯の変」「◯◯の役」の違い、既に歴史学で何度も問題になっておりまして、学習院大学長の故・安田元久先生が1983年(昭和58年)に『歴史事象の呼称について : 「承久の乱」「承久の変」を中心に』という論文を書かれています。安田先生、鎌倉時代研究の権威で、日本史の戦乱を全て書いた「戦乱の日本史」という本も書いて居られます。子供の頃、「戦乱の日本史」をよく読んでたなあ。分厚い本で、子供心にはワクワクした。
安田論文「歴史事象の呼称について」(学習院大PDFファイル)
安田先生は大前提で、「教科書では呼称の統一が意識されているが、統一をする場合の根拠は必ずしも明白ではないし、不用意にも、その学問的・思想的根拠に一貫性を欠いている面も見受けられる。」とし、割りと教科書でも命名法則はおざなりだよ、と指摘しています。
乱は「反乱」「内乱」だった!
そして安田先生は、乱と変の使い分けを以下の通り述べて居られます。
「乱とは「世の乱れ」「戦乱」「大規模な政治的抗争・内乱」などを言う。その日本史上における諸事象に対する適用例を示すと、
1)政治権力に対する武力による反抗、すなわち叛乱事件として、
藤原広嗣の乱、薬子の乱、承平天慶の乱(松平注:平将門の乱、藤原純友の乱と同じ)、平忠常の乱、保元・平治の乱、和田氏の乱、三浦氏の乱、応永の乱、上杉禅秀の乱、大塩の乱、佐賀の乱
2)政治権力の収奪による内乱状態
壬申の乱、承久の乱、元弘の乱、南北朝の(内)乱、永享の乱、応仁・文明の乱」
成功とか失敗とかは無関係に、大規模な戦乱・内乱の意味なんですね。この他に「三州錯乱」(松平元康の今川家からの独立)というのもあり、乱を起こした側が勝利して政権交代を果たしているケースが結構ある。
変は変事・異変である
「つぎに変とは「凶変」「変事」「政治変革の陰謀事件」などを意味することが多く、またときには、一つの倫理・道徳的あるいは政治的立場からの批判的判断をふまえての「不当な事件=異変」を指した。その適用例を見ると、
3)政治権力者たる天皇・皇族、あるいは将軍などが獄逆・配流などに遭い、(一つの立場から見て)不当な立場に置かれた事件
承久の変・正中の変・元弘の変・嘉吉の変
4)政治上の対立による陰謀事件
長屋王の変・応天門の変・承和の変・安和の変・鹿ヶ谷の変」
今風に言うと、「事件」に近いかな?
乱は世の中が変わった事件、変はあまり変わらなかった事件
安田先生は更に、
「2)を乱と呼称することには何らの疑問もない。それらは、まさに戦乱なのである。また1)4)は、そ
の時点での政治権力者側から見ての叛乱であり、また変事であって、歴史事実としては結局その政治権力者によっ
て鎮圧されている。そしてこの乱または変に際して、それらの事件を発起することが「乱逆」であり、発起主体は「乱逆人」「謀叛人」とされた。1)4)はこの点で共通するが、1)の乱と4)の変という呼称の差異は何か。それは一つには事件の規模の大小にもよるが、1)の場合には支配的政治体制の変革にも及びかねない叛乱事件を含むのに対し、4)は何れも政治的支配層の内部におこった権力闘争であって、たとえ事件の発起主体が勝利を得ても、支配体制や支配権力の構造の上で大変革が期待されるといった性質をもっていなかった点に注意したい。
一般的に呼称する乱と変の差は、主としてこの点にあり、変という呼称は政治的・社会的変革を意味するものではなかった。」といっています。
要するに、今風に言えば政党内部の争いが我々の生活には何らの問題がないようなもので、コップの中の争いが「変」であり、政権交代で景気が良くなったとかそういう話が「乱」なんですね。
(こうしてみるとテレビ局が国政選挙番組で乱というワードを使いたがるのはよく分かるなあ。定義として正しいんですよ)
という話でした。なんでもソースをちゃんと当たるのは大事ですね。
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