「睾睾睾睾(おおさわたかひろ)」は正しいか?ーデマ訓読みが流布されるまでー

ネット上で、睾丸の「睾」(コウ)の訓読みが「きんたま」の他に「おおきい」「さわ」「たかい」「ひろい」がある、だから「睾睾睾睾は、(おおさわたかひろ)という人名のような読みになる」という話が流布されている。元々は昨年の10月に2ちゃんねるのVIP板で下記のスレが立ち、それがまとめサイト経由で流布されたようだ。

「睾」←コイツの訓読みまんまでワロタwwwwwwwww
http://amaebi.net/archives/2101774.html

きんたまじゃありません「睾睾睾睾(おおさわたかひろ)」です
http://togech.jp/2013/10/24/3947

しかし、私が調べた結果、「おおきい」「さわ」「ひろい」という訓読みは正統的な漢和辞典では確認できず、『康煕字典』を誤読した為に生じた虚偽の訓読み、いわば「デマ訓読み」ではないか?という疑惑が浮上した。

藤堂明保『漢和大字典』では睾の字に「きんたま」「さわ」「まどひぬ(古訓)」
白川静『字通』では「さわ」「たかい」「きんたま」「たかし(古訓)」
小林信明『新撰漢和辞典』では訓読みなし。となっている。

ただし、『新撰漢和辞典』では意味の項目に「さわ」「高いさま」「広く大きいさま」を立てている。これが問題の根源か。

実は、この睾の字。古くから別の漢字と混同されていたようだ。『康煕字典』には「『およそ経史子の書で「睾」を「皐」とするものは皆伝写の誤りで誤字である』とあり、明代の字書『字彙』が誤っているとしている。そもそも「睾」の字に「おおきい」「さわ」「ひろい」の意味があると言い出したのは明の『字彙』・『字彙補』だが、これは古代において派生義として一瞬出た可能性があるような意味であるらしく、白川静氏は「睾の字の本義は牡器で、音が通じる他の字と混同されたものだ」と断じている。正直な話、「おおきい」「さわ」「ひろい」という意味は辞書として掲載するには用例が殆ど無く、俗受けを狙った明の人がネタ的に盛り込んだものである可能性が高い。一応『字彙』・『字彙補』には荀子や列子が用例に上がっているが、誤写の恐れもある。
 漢字学者が編纂したまともな漢和辞典で、「おおきい」「さわ」「ひろい」という訓読みが出てこないのはそのせいであろう。唯一、訓読みとして古辞書に出てくるのは「たかし」。これは類聚名義抄に典拠があるという。

 『新撰漢和辞典』では意味の項目に「広く大きいさま」を立てているのはかなり疑問である。これは『康煕字典』に引く『字彙補』に荀子を出典として載っているものなのだが、熟語「睾睾」の意味なのである。うーん。熟語の意味を単漢字の解説で使うのはちょっとね…

元々の2ちゃんのログには字書らしきものの画像が出ているが、この書物の出典は確認できていない。市販の子供の名付け字典か何かのような気がする。市販の子供の名付け字典には往々にして無学な占い師がいい加減に作っているものもあるので、DQNネームの温床として問題になっているのだが、この「睾睾睾睾(おおさわたかひろ)」もそのたぐいではないか。
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No title

>>元々の2ちゃんのログには字書らしきものの画像が出ているが、この書物の出典は確認できていない。市販の子供の名付け字典か何かのような気がする。
 「漢検要覧 1/準1級対応」です。当方、漢検一級の勉強をしている者ですが、最初に見た時は驚きましたね。

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松平俊介

Author:松平俊介
松平俊介(まつだいら・しゅんすけ)
雑誌ライターやwebディレクターをしております。webデザインからwebマーケティング、ライターまで何でもやっております。これまでに色々なプロモーションを手がけて参りました。過去には週刊SPA!等に関わっておりましたが、現在は「連載JP」(東京産業新聞社)や、neverまとめ(NHNジャパン)を中心に執筆しております。
趣味は街歩きと歴史研究です。

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